#StopViolence #StopHarassment【03】これってハラスメントなの?
■Bさん
家庭と趣味と仕事のバランスを大事に考えるBさんは、転勤がなく、残業が少ない契約社員の営業事務を選んだ。何もわからないところからのスタートだったが、指導役の先輩社員がひとつひとつを丁寧に教えてくれた。いつも気にかけてくれて細かいことにも気づいてアドバイスをくれた。毎日が新鮮で、成長を感じる充実した日々だった。
数ヶ月が経ち、日常の業務は先輩の指示がなくてできるようになってきた。その日もいつものように集計を終えて報告書を作って帰宅した。翌日出勤するとすぐに先輩から呼ばれた。昨日の報告書を指して、「どうしてこんなことを勝手にするのか?」と問われた。「え???」わけがわからず立ちすくんでいると「こういうケースは、ああして・・・こうして・・・」と一方的にまくし立て、「契約社員にやらせるんじゃなかった」と言って自分でやり直し始めた。「私が・・・」と言おうとすると「いいから、自分の仕事をしてください」とピシャリ。いつもはとてもやさしい先輩なのに・・・。これって何?
こんなことが何度か続き、簡単な仕事しか与えられなくなった。家族といるときや趣味を楽しんでいるときに先輩の言葉を思い出すと落ち着かなくなる。浮かない気分の時間が徐々に増えた。明日も先輩に会うのか・・・。怖い。情けない。涙が出る。胸が苦しい。怒りが湧く。心と体がぐちゃぐちゃ。もうダメかもしれない。
(相談事例を参考した創作です)
【この連載について】
職場で体験したこと、大学や研修で学んだこと、相談支援で気づいたこと などを中心に書いている。
ハラスメントが人のこころや体や生活に与える影響、傷ついた方の癒しと再起、傷つける人の心理や向き合い方、人権としてのハラスメント理解、国内外の動き、職場のマネジメントや経営の在り方、人の中にある攻撃性 などいろんな視点から「暴力とハラスメント」を考えていきたい。
目的は、誰もが自分を大切にしながら自分らしく安心して生きることができる社会になること。
ILO『仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約』の批准に向けた動きに合わせて、ひとりひとりが声を上げ、一歩を踏み出し、日本の職場を安全に変える。
暴力やハラスメントに苦しみ、傷つき、悩む方、傷つけることをやめられない方、ハラスメントやいじめを繰り返す職場の方、相談や支援に携わる方、みなさんと共にその根絶を考え、行動したい。
さくらワーカーズオフィスは、傷ついた人の癒しや立ち上がりをお手伝いします。
傷つけることをやめられない人、ハラスメントを繰り返す職場を変えたいと考えている方の相談にも対応します。
「職場から暴力やハラスメントをなくす」活動に関心ある方や何かしたいと考えている方も歓迎します。
ハラスメントって?
ハラスメントの言葉や定義
今は、ハラスメントの基準となる言葉や定義は国や地域によって異なる。
「A国でハラスメントになる行為が、B国ではハラスメントにならない」ことが普通に起きる。
ハラスメント対策先進国のヨーロッパでは「モラルハラスメント」を使うことが多い。
日本で使われている「パワーハラスメント」は和製英語で、海外では通用しない。
国や地域によって歴史や文化、価値観の違いがあるので当然のこと。
パワーハラスメント
「パワーハラスメント」(フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia))
『2001年に東京のコンサルティング会社クオレ・シー・キューブの代表取締役岡田康子による和製英語である。セクハラ以外にも職場にはさまざまなハラスメントがあると考えた岡田らは、2001年12月から定期的に一般の労働者から相談を受け付け、その結果を調査・研究し、2003年に「パワーハラスメントとは、職権などのパワーを背景にして、本来業務の適正な範囲を超えて、継続的に人格や尊厳を侵害する言動を行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与える」と初めて定義づけた』
パワーハラスメント《(和)power+harassment》
「パワーハラスメント」(goo辞書)
職場などで、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、相手に精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為。上司から部下に対してだけでなく、先輩・後輩、同僚間、部下から上司に対する行為や、顧客や取引先によるものも含まれる。パワハラ。
[補説]身体的な攻撃(暴行・傷害)、精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言)のほかに、人間関係からの疎外(隔離・無視・仲間外れにすること)、業務上の過大または過小な要求、私的な事柄への過度な干渉なども該当する。
モラルハラスメント(仏: harcèlement moral)
「モラルハラスメント」(フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia))
『フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した言葉』
『外傷等が残るために顕在化(見える化)しやすい肉体的な暴力と違い、言葉や態度等によって行われる精神的な暴力は見えづらいため、長い間潜在的な物として存在していたが、イルゴイエンヌの提唱により一般にも知られるようになった』
フランスの法制化
「モラル・ハラスメント規制を法制化」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
『2002年1月に公布施行された「労使関係近代化法」により、(1)企業内における「モラル・ハラスメント」を規制する条文を導入(労働法L122-49条~54条)、(2)被用者の身体的健康だけにとどまらず精神的健康含めて健康予防における使用者の責任を拡大する(労働法L230-2-1条)という労働法の改正が行われた。同時に、刑法にも罰則規定が設けられた(刑法222-33-2条)』
『労働法典第122-49条は、「いかなる労働者も、その権利と尊厳に損害をもたらし、その肉体的又は精神的健康を失わせ、または結果的にそうした悪化を招くようなモラル・ハラスメントを繰り返しうけることがあってはならない」と規定』
パワーハラスメントの定義(日本)
職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの
労働施策総合推進法
セクシュアルハラスメントの定義(日本)
男女雇用機会均等法
職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件につき不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること
世界はボーダーレスになった。
「国の違い」という言葉で人権の課題に向き合うことを避けることはできなくなってきた。
2019年6月、世界(ILO)は『仕事の世界における暴力とハラスメント条約』(※)を採択し、仕事の中にある暴力とハラスメントに根絶に向かうと決めた。
この条約で初めて世界基準となる暴力とハラスメントの定義が示された。
※正式名「仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約(第190号)」(2019年6月ILO(国際労働機関)総会にて採択・2021年6月発効)
『仕事の世界における暴力とハラスメント条約』第1条
「仕事の世界における暴力とハラスメント」(国際労働機関/駐日事務所)
(a)仕事の世界における「暴力及びハラスメント」とは、1回限りのものであるか反復するものであるかを問わず、身体的、精神的、性的又は経済的害悪を引き起こすことを目的とし、またこれらの損害をもたらし、若しくはもたらすおそれのある一定の許容することができない行動及び慣行またはこれらの脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力及びハラスメントを含む。
(b)「ジェンダーに基づく暴力及びハラスメント」とは、性若しくはジェンダーを理由として個人に向けられた暴力及びハラスメント又は特定の性若しくはジェンダーの個人に対して不均衡に影響を及ぼす暴力およびハラスメントをいい、セクシュアル・ハラスメントを含む。
国連(ILO)と各国の定義
■国際機関・国名 | 枠組み | 定義 |
---|---|---|
国連(ILO) (*1) | 仕事の世界における暴力とハラスメント条約(2019年) | 〇仕事の世界における「暴力及びハラスメント」とは、1回限りのものであるか反復するものであるかを問わず、身体的、精神的、性的又は経済的害悪を引き起こすことを目的とし、またこれらの損害をもたらし、若しくはもたらすおそれのある一定の許容することができない行動及び慣行またはこれらの脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力及びハラスメントを含む。 〇「ジェンダーに基づく暴力及びハラスメント」とは、性若しくはジェンダーを理由として個人に向けられた暴力及びハラスメント又は特定の性若しくはジェンダーの個人に対して不均衡に影響を及ぼす暴力およびハラスメントをいい、セクシュアル・ハラスメントを含む。 |
スウェーデン | 労働環境法の規定に基づく職場における迫害に対する措置に関する政令(1993年) | 個別労働者に向けられた攻撃的手段による繰り返しの非難的又は明確に否定的な行動であってこれら労働者を職場共同体から除け者にする結果をもたらしうるもの |
フランス | 労使関係近代化法(2002年) | いかなる労働者も、その権利と尊厳に損害をもたらし、その肉体的又は精神的健康を失わせ、または結果的にそうした悪化を招くようなモラル・ハラスメントを繰り返し受けることがあってはならない |
ベルギー | 職場における暴力、モラル・ハラスメント及びセクシュアル・ハラスメントからの保護に関する法律(2002年) | 企業の内外から生じ、特に招かざる行動、言葉、脅迫、行為、身振り及び書面の形を取った、その意図又は影響が職場の労働者の個性、尊厳又は身体的若しくは心理的統合性を損なうこと、その雇用を危うくすること又は脅迫的、敵対的、屈辱的、侮辱的又は攻撃的環境を作り出すことにある、繰り返される虐待的行為 |
オーストラリア各州 (ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州) | ガイドライン(職場のいじめの予防と対応)(2009年) | 単数もしくは複数の労働者に対し繰り返し行われる、安全衛生上の問題を発生させる、不当な振る舞い |
日本(*2) | 労働施策総合推進法(2019年改正) 男女雇用機会均等法(2017年改正) | 〇職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの 〇職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件につき不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること |
山口が、(*1)国連(ILO)の内容を条約第190号に変更する、(*2)日本の内容を追加して記載するという修正を行った
ILO条約と日本の法令の違い
ILO条約 | 日本の法律 | |
【ハラスメントの定義】 | 暴力とハラスメントを包括的に定義 (パワハラ・セクハラ・ジェンダーハラスメントを含む) | パワハラ・セクハラのみ個別に定義 (ジェンダーハラスメントなどを含む包括的な定義ではない) |
【対象者】 | 労働者・退職者・ボランティア・求職者・インターン・雇用主・取引先など | 原則として労働者のみ |
【行為の禁止】 | 法律で行為を禁止 | 対策を義務付け |
【救済措置】 | 被害者の救済、支援を確保 | なし (相談、調停、斡旋など限定的) |
【罰則・制裁】 | 制裁の定めを義務付け | なし (刑事罰に該当するもののみ) |
【監督・調査】 | 監督と調査の仕組みの確立と強化 | ハラスメントに限ったものはない (現行法の範囲で実施) |
今はまだ、国によって「何がハラスメントなのか」はバラバラ。
ILO条約で初めて「仕事の世界における暴力とハラスメント」の世界基準ができた。
世界は、ハラスメントを広く捉え、行為の禁止・被害者の救済・加害者の処罰をはっきりさせようとしている。
日本の法律や制度がハラスメントをより包括的に捉え、行為を明確に禁止し、被害者の救済と支援を保障し、行為者(事業者)を罰することができるようになるといい。
早い時期に条約を批准し、誰もが大切にされる日本の社会と職場を実現したい。
法律や制度が定める「いじめ」や「ハラスメント」は、時とともに変わっていきます。
今の状況がおかしいと感じたら、「いじめなのか」「ハラスメントなのか」にとらわれ過ぎないほうがいいときもあります。
今、悩んでいること、苦しんでいること、困っていること、会社に行けなくなっていることに目を向けて、自分を愛し、大切にしてもいいのではないでしょうか。
「私が悪い」「私が弱い」「私の努力が足りない」と自分を責めたり、自信を失ったりしていませんか?
「眠れない」「気分が落ち込む」「吐き気がする」「動けなくなる」といった、からだやこころに変化がありませんか?
相談できる人が身近にいなくて困っていませんか?
勇気を出して今すぐご相談を。
【第4回】に続く
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