#StopViolence #StopHarassment【05】子どものいじめと大人のいじめ
■Dさん
東京の有名大学入学を機に地元を離れ、そのまま一流企業に就職したDさん。学生時代からの同級生との結婚を機に転職した。営業や企画の経験を高く評価してくれた地元企業に入社した。
年長の上司のもとで、営業の仕事に就いた。様々な年代の同僚たちは地元の人ばかり。入社してすぐの頃から、みんなよそよそしく誰ひとり関わろうとしないことに気づいた。会話をしようとすると、忙しいふりをされる。わからないことを質問すると「一流大学出て、大企業勤めてたのにそんなことも知らないんですか」を嫌味を言われる。仕事に必要な情報も隠される。
上司に相談すると「徐々に職場に慣れるさ」と言うだけ。そんなんじゃない。仕事への自信が急速になくなっていく。本当は何もできないダメ人間なんじゃないかと思うようになっていく。自分の意見を言ったり、自分で考えて何かをしたりできない。ちょっとしたことでも、気を使いながら、低姿勢でお伺いをたてたり、お願いしたりするようになっている。もう私は、私ではない。
(相談事例を参考した創作です)
【この連載について】
職場で体験したこと、大学や研修で学んだこと、相談支援で気づいたことなどを中心に書いている。
ハラスメントが人のこころや体や生活に与える影響、傷ついた方の癒しと再起、傷つける人の心理や向き合い方、人権としてのハラスメント理解、国内外の動き、職場のマネジメントや経営の在り方、人の中にある攻撃性 などいろんな視点から「暴力とハラスメント」を考えていきたい。
目的は、誰もが自分を大切にしながら自分らしく安心して生きることができる社会になること。
ILO『仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約』の批准に向けた動きに合わせて、ひとりひとりが声を上げ、一歩を踏み出し、日本の職場を安全に変える。
暴力やハラスメントに苦しみ、傷つき、悩む方、傷つけることをやめられない方、ハラスメントやいじめを繰り返す職場の方、相談や支援に携わる方、みなさんと共にその根絶を考え、行動したい。
さくらワーカーズオフィスは、傷ついた人の癒しや立ち上がりをお手伝いします。
傷つけることをやめられない人、ハラスメントを繰り返す職場を変えたいと考えている方の相談にも対応します。
「職場から暴力やハラスメントをなくす」活動に関心ある方や何かしたいと考えている方も歓迎します。
学校のいじめはなぜ増えたのか?
いじめやハラスメントは、わかりにくい。
学校や職場では、日常の学びや仕事にまぎれて暴力やいじめ、嫌がらせが行われる。
それは、ときにあからさまに、ときに密かに陰湿に行われる。
学校でのいじめがすごく増えている。どうしてなのか?そこから見ていきたい。
考え方の転換「いじめは誰にでも、どこにでもある」 ~ 文部科学省の取り組み
国は、2013年(平成25年)のいじめ防止対策法の施行を機に、いじめの定義を変えた。
いじめは「誰にでもどこにでも起きる」もので「気づき」を大切にすることを基本方針とした。
令和元年は、最も少なかった平成23年の8倍以上となった。
生徒をよく見ている学校はいじめの認知(気づき)件数が多く、いじめを見逃している学校は認知件数が少ないと指摘する。
「いじめの正確な認知に向けた教職員間での共通理解の形成及び新年度に向けた取組について(通知)」(27初児生第42号・H28/3/18)
■いじめの定義(いじめ防止対策推進法 第2条)
「当該児童生徒等が在籍する学校に在籍している当該児童等と一定の人間関係にある児童等が行う心理的、物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」
*従来の定義から「自分よりも弱い者に対して一方的に」「継続的に」「深刻な苦痛 」という3つの要素をなくした。
■「いじめの正確な認知に向けた教職員間での共通理解の形成及び新年度に向けた取組について(通知)」(27初児生第42号・H28/3/18)より「いじめの認知に関しては、平成26年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」における児童生徒1,000人当たりのいじめの認知件数について、都道府県間の差が30倍を超えるなど、実態を反映したものとは言い難い状況がみられます。言うまでもなく、いじめを正確に漏れなく認知することは、いじめへの対応の第一歩であり、いじめ防止対策推進法が機能するための大前提であります。また、いじめの認知と対応が適切に行われなかったために重大な結果を招いた事案がいまだに発生していることを真摯に受け止める必要があります」
いじめを隠さない~いじめの認知件数が多いのは、先生の目が行き届いているあかし~
●子どもが集団で学校生活を送る上で、いじめはどうしても発生するものと考える。
●いじめを積極的に認知し、(件数は増えるが)早期に対応する。
●いじめと疑われるケースは、すべて「いじめ防止対策組織」に報告する。
●いじめの判断は、先生がひとりでしないで、組織でする。
●迷ったときは「子どもを本当に守ることができるか」とシンプルに考える。
●疑問が心をよぎったときは「この対応でいいんですか?」とためらわずに言う。
「いじめの正確な認知に向けた教職員間での共通理解の形成及び新年度に向けた取組について(通知)」(27初児生第42号・H28/3/18)より山口が要約
いじめは単純でない~加害と被害の関係だけで表面的・形式的に判断しない~
●子どもの大半が、仲間はずれ・無視・陰口などの嫌がらせやいじわるの被害も加害も経験する。
●「観衆」(はやし立てたり面白がったりする)や「傍観者」(周辺で暗黙の了解を与える)にも注意を払う。
●本人がいじめを否定することもある。
●インターネット上で悪口を書かれた本人がそのことを知らないことがある。
●好意が意図せずに相手の心身に苦痛を感じさせることがある。
●相手を傷つけたがすぐに謝罪して良好な関係を取り戻すこともある。
「いじめの防止等のための基本的な方針」(文部科学省)より、山口が要約
子どものいじめの認知件数は70,231件(平成23年度)から612,496件(令和元年度)に急増した。
いじめの捉え方(認知の視点)でこれだけ変わる。
*令和2年度が517,162件に減ったのは、コロナの感染拡大で登校や子ども同士の接触が減ったり、先生から見えにくくなったりしたため。
学校うちはでは、つらい思いをしている本人を大切にしようとする、また、加害生徒にもしっかりと関わる。
社会に出ると空気が一変、いじめ、ハラスメントは無いことが当然とされる。
職場のハラスメントのとらえかた(認知の視点)は、今のままでいいのか・・・。
それでもいじめは隠されるー旭川中2女子生徒いじめ問題
「第三者委員会調査の中間報告への遺族コメント」
「ようやくいじめが認定されました。いまも心が折れそうになることがなり、この1年はずっとその繰り返しでした。自分が進む方向がわからずずっと自問自答している。学校は誰が見てもいじめだと言えた状況なのに、なぜ悪ふざけだと言ったのか。なぜいじめではないと断言できたのかいまでも疑問。私は娘が苦しんでいるのを目の前で見ていました。亡くなる直前まで苦しんでいた姿を見ると、今でも涙がこぼれてくる。あのときいじめと認めてほしかった。いじめは人の命を奪うという、恐ろしいことを加害生徒にも命の重さを感じてほしいと願っている」
「職場のいじめ」は、まだ隠れている ~ 国の労働相談の利用状況からみる~
国の個別労働紛争解決制度の「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は年々増え続け、全相談に占める割合は3分の1近くになり、9年連続のトップ。
「平成18年~令和2年 個別労働紛争解決制度の施行状況」(厚生労働省)
この統計は、職場で解決できずに国の相談解決制度を利用した数であることからすると、その実数は計り知れない。その実態はわからない。
黙って辞めていったり、じっと我慢していたりする、本人しか知らない事案も相当あるはず。
個別労働紛争解決制度のしくみ
●職場や仕事で問題や争いが起きる。
→まずは、職場(企業内)で話し合って解決を図る。
→解決できないときは、都道府県労働局の総合労働相談コーナーを利用できる。
※労働者から、会社からのどちらからでも相談できる。
→法令違反などがあるときは、労働基準監督署による指導・監督の対象となる。
→争い(紛争)の解決の援助の対象となるときは、都道府県労働職長による助言・指導、または紛争調停委員会によるあっせんを利用する。
子どもと大人の違い
子どものいじめは、本人の安全や関わる子どもたちの健やかな成長を大切にする。
いじめは「誰にもどこにもあるもの」という目で見て、小さな芽の段階のいじめも発見して対処しようとする。
職場は、事業活動の場であり、わたしたちが働く場として機能している。
いじめや嫌がらせが公になれば、会社は信頼を失い、業績にも影響する。
管理職や上司は、いじめや嫌がらせがあると責任を問われ、評価にも影響する。
会社や職場にとって、いじめや嫌がらせは、存在してはいけないもの。
同じ人の集団の中で起きることが、子どもには当たり前のこと、大人にはあってはならないこととなる。
このままでいいのか??? 職場のいじめや嫌がらせについてみんなで考えたい。
今、職場でいじめや嫌がらせを受けている方。
訴えること、助けを求めること、闘うこと、逃げること、いろいろできる。
何より身の安全を第一に。
あなたを一番に助けられるのは、あなた自身ということを知ってほしい。
そこだけがあなたの居場所ではないということにも気づいてほしい。
いじめ、嫌がらせ、ハラスメントかな?感じたとき
★起きたこと、されたことを記録する
★ぜったいにひとりで我慢しない
★悩みやつらさは信頼できる人(家族や友人)や信頼できるところ(さくらワーカーズオフィスなど)に相談する
★職場(上司や相談窓口など)に相談する
★職場に相談できないときは外部の相談窓口(総合労働相談センターなど)に相談する
★暴力や暴言などの犯罪行為は警察などに相談する
★損害賠償の請求や交渉は弁護士などに相談する
「ハラスメントかな?」と思ったら、誰かに話そう。
「私が悪い」「私の努力が足りない」と自分を責めて、我慢してはいけません。
「モヤモヤする」「うつっぽくなる」「明るさや元気がなくなる」のは、危険の合図です。
おかしいと感じたら、すぐに相談しましょう。
【第6回】に続く
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