#StopViolence #StopHarassment【01】仕事の世界の暴力とハラスメントを話し始める

ある日、誰かが会社を辞める。暴力やハラスメント、いじめ、嫌がらせが、心や体を痛めつけ、生活を危うくし、人生に重大な変化をもたらす。真実はあいまいにされ、誰もが口を閉ざし、ひとり苦しんでそこを去る。そこでは同じことが繰り返される。

職場で体験したこと、大学や研修で学んだこと、相談支援で気づいたこと などを中心に書く。
ハラスメントが人のこころや体や生活に与える影響、傷ついた方の癒しと再起の支援、傷つける人の心理や向き合い方、人権課題としてのハラスメントの理解、国内外の政治や行政や活動の動き、職場や組織のマネジメントや企業経営の在り方、人の進化から見た攻撃性 などいろんな視点から「暴力とハラスメント」を考え、情報を共有していきたい。

目的は、誰もが自分を大切にしながら自分らしく安心して生きることができる社会になること。
ILO『仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約』の採択とその後の日本の批准に向けた動きに合わせて、ひとりでも多くの方が声を上げ、一歩を踏み出せば、きっと日本の職場は安全になる。
暴力やハラスメント(いじめ、嫌がらせ)に苦しみ、傷つき、悩んでいる方、誰かを傷つけ、傷つけることをやめられない方、ハラスメントやいじめが繰り返される職場の方、ハラスメントの相談や支援に携わる方、みなさんと共にその根絶を考え、行動したい。

さくらワーカーズオフィスは、傷ついた人の癒しや立ち上がりをお手伝いします。
傷つけることをやめられない人とも向き合います。
ハラスメントがなくならない職場を変えたいと決意する管理者や経営者からの相談にも対応します。

「職場から暴力やハラスメントをなくす」ことを地域や社会に働きかける活動へのご参加、ご支援も歓迎します。

埋もれ、隠れているハラスメント

2022年4月からすべての企業にパワーハラスメント防止法(改正労働施策総合推進法)にもとづくパワハラ対策が義務化された。
2020年度に国の総合労働相談コーナーに寄せられた労働紛争相談は278,778件。そのうち、いじめ・嫌がらせの相談は79,190件で28.4%を占め、9年連続で相談内容のトップとなっている。
パワハラ実態調査(2020年)では、過去3年間にパワハラを経験した31.4%パワハラを相談も何もしなかった35.9%相談したが勤務先も何もしてくれなかった47.1%相談したがパワハラがあったともなかったとも判断せずあいまいなままだった59.3%だった。

ハラスメント対策としての法整備や施策が進む一方で、パワハラは減ることはない。
「相談できない」「わかってくれない」「何もしてくれない」「あいまいにされる」・・・当事者はひとり悩み、苦しみ、ひっそりと職場を去っていく。
ハラスメントで心や体が痛めつけられ、生活やキャリアや人間関係などいろんなものがボロボロになっていく。
私たちが長い時間を費やす多くの職場は安全ではない。ハラスメントがあっても職場は変わらず、同じことがく理解し繰り返し起きて、傷つく人が増えていく。

仕事上の暴力とハラスメントと人権

今、世界は仕事上の暴力とハラスメントの根絶に向かっている。
国連憲章は平和の希求とともに人権と自由の尊重を謳い、世界人権宣言を定めた。「人種差別撤廃条約」「女子差別撤廃条約」「移住労働者権利条約」「障害者権利条約」などを定め、人権課題の取り組みを進めてきた。
2019年6月 ILO(国際労働機関)は『仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約』を賛成439、反対7、棄権30で採択した。
ILOは、暴力やハラスメントの撤廃がSDGs(持続可能な開発目標)の目標3・目標5・目標8・目標10の達成に貢献するとしている。

『仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約』の採決に出席した日本の政府代表と労働者代表は賛成し、使用者代表は棄権した。現在(2022/3/7時点)までに11ヶ国が批准しているが、日本はまだ批准していない。
この条約で定める暴力やハラスメントの定義や対象となる労働者等の範囲は、日本の法律より広い。日本が批准するには、さらなる法律等の整備が欠かせない。何より大切なのは、暴力やハラスメントを人権問題としてとらえること。ハラスメントを犯罪や加害をいった言動の問題としてだけでなく、人の中にある権力や暴力や差別といった「こころ」の問題としてとらえて、人のこころに粘り強く働きかける取り組みが欠かせない。また、政治や行政、企業だけでなく、私たちひとりひとりの行動が問われている。

傷つく人と傷つける人

仕事上の人間関係の中で暴力やいじめ、嫌がらせは起きる。そこには被害(傷つくこと)があり、加害(傷つけること)がある。

暴力やいじめ、嫌がらせを受けて心や体や生活が傷ついた人が、傷つけた人は強い立場にいることが多く、被害者が立ち向かうことはほとんどできない。相談や通報窓口がたくさんできているが、不安や恐怖で動けなかったり、相談する体力がなかったり、相談先を知らなかったり、相談しにくかったりする。職場で相談しても何もしてくれなかったり、曖昧にされたりすることもある。職場の人間関係、心や体の不調、生計の維持、退職の判断、将来のキャリアプランなど、たくさん不安が押し寄せる。この連載の中で、傷みと不安を抱える方のことをひとつひとつを丁寧に考えていきたい。
今、職場のハラスメントで傷つきの中にいる方は、ひとりで抱えずに誰かに相談、心や体の不調を感じる方は、まず受診をしてほしい。

人は、人を傷つけることがある。暴力やハラスメントの背景や原因は、単純な注意不足のこと、新しい人権感覚が身に付いていないこと、固定観念やバイアスが強いこと、ストレスや重圧などからくる心理的な不安や恐怖であること、感情や欲求の抑制が難しい特性や疾患があること、他者感情の理解が難しいパーソナリティがあること、など様々。誰かを傷つけたときは、傷ついた相手への謝罪、法や就業規則にもとづく処分、損害賠償の責任などが求められる。同時に、自分を見つめる機会としてほしい。傷つける行為は、結果として自分も傷つける。繰り返す方は、相談や受診をしてほしい。

集団で生きる人類の進化と攻撃的な本能

人は、互いに関わり合いながら群れて生きる。ひとつの種として地球上で長い年月をかけて進化し、今の環境に適応し、社会性を獲得してきた。人類に近い動物たちを観察すると、その群れの中には、暴力やいじめ、嫌がらせがある。生物や進化や文化などの分野からの研究では、人の暴力性や攻撃性は、競争、支配、秩序といった言葉でそれなりの理由が説明される。戦争や暴力やハラスメントを繰り返すこの人類が進化して、いずれ暴力とハラスメントを必要としなくなるときが来るのだろうか?もし来るとして、これからどのくらい・・幾百年、幾千年あるいはもっと待たなければならないのだろうか?

今の私たちは、仕事の世界で暴力とハラスメントを根絶できるのだろうか?
戦後の世界は、人権の尊重を社会正義(social justice)として信じて共有し、各地で暴力が繰り返される中でもあきらめないで平和と人権の取り組みを進めている。
ホーキング博士(Stephen Hawking・イギリスの理論物理学者)は、「最も変えたい人間の欠点最も強化したい人間の資質は何か」と問われて“攻撃性”(aggression)“共感”(empathy)と答えた。進化論の研究では、これまで人類が理想に向かって進化した事実は確認できないという。一方でこの先、人類が意思を持って理想に向かって進化できないという証明もない。

暴力とハラスメントのない安全な職場

エイミー・C・エドモンドソン(Amy C Edmondson)は、著書の冒頭にエドマンド・バークの言葉を引用して、グループやチームで相互に依存しながら進める仕事には、「心理的安全性」のある「恐れのない職場」が有効とする。

  • 行動力と判断力を、不安ほど巧みに、心のなかから根こそぎ奪う感情はない(Edmund Burke)

組織や会社の社員であってもフリーランスであっても、人は人と関わりながら仕事をする。今の時代は、人材や個性や能力が多様になり、複数のチームやメンバーと連携して仕事が進み、関わる人たちとのつながり方も複雑化している。一方で、仕事には成果が求められ、その結果は収入や報酬だけでなく、生活の質も影響する。
多様で複雑な職場では、互いに考えや感情を共有し、わかり合うことは難しく、不安や恐れが増す。もはや、固定化された価値観や上意下達によるマネジメントでは、期待以上の結果が出すことはできない。顔色を気にせず誰にでも意見が言えて、間違いが許され、いつも自分らしくいられる心理的に安全な職場が良いパフォーマンスを出すことがわかってきた。互いを尊重し合う良いコミュニケーションが暴力とハラスメントをなくす。組織マネジメントを変える大きな流れとして、注目したい。

【第2回】に続く

ご意見やお気づきのことがありましたら、メールでご連絡ください。
内容は随時更新、変更することがあります。

コメントを残す