#StopViolence #StopHarassment【02】今職場で起きていること

Aさん
入社2年目のAさんは、新しい部署の製造課に着任した。課長から同僚に紹介された。とても緊張したが、みなさんが笑顔を返してくれてホッとした。課長から「ここはこれまでの総務課と違って覚えることが多い」「早く戦力になってほしい」と励まされた。そのあとすぐに、大量の専門書と資料を渡されて「3ヶ月以内にひととおり読んで覚えるように」と指示された。少しでも早く覚えようと家に持ち帰り、休日も使って頑張ったが、初めての言葉や内容が多くなかなか進まなかった。
1ヶ月ほど経った頃、どうしてもわからないところを課長に聞いてみた。「調べればわかる」「これがわからないようじゃここでは働けない」と言って教えてもらえなかった。進捗を課長に報告する日課が追加された。報告の都度、間違いや遅れを責められ続けた。同僚には「ここ(課長)のやり方だから…」と、見て見ぬふりされた。家族からは「何事も初めは大変だから」と励まされ続けた。徐々に文字が読めなくなった。吐き気がして時々会社を休むようになった。3ヶ月目、ついに体が動かなくなった。クリニックで適応障害の診断書もらって2ヶ月間休職した。薬を飲んで、家でじっとして過ごした。涙が出て、ダメ人間になってしまったと感じながら過ごした。復職日が近づく。もうあの職場には戻れない。動悸がする。そして退職した。
(相談事例を参考に創作したものです)

【この連載について】
職場で体験したこと、大学や研修で学んだこと、相談支援で気づいたこと などを中心に書いている。
ハラスメントが人のこころや体や生活に与える影響、傷ついた方の癒しと再起、傷つける人の心理や向き合い方、人権としてのハラスメント理解、国内外の動き、職場のマネジメントや経営の在り方、人の中にある攻撃性 などいろんな視点から「暴力とハラスメント」を考えていきたい。


目的は、誰もが自分を大切にしながら自分らしく安心して生きることができる社会になること。
ILO『仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約』の批准に向けた動きに合わせて、ひとりひとりが声を上げ、一歩を踏み出し、日本の職場を安全に変える。


暴力やハラスメントに苦しみ、傷つき、悩む方、傷つけることをやめられない方、ハラスメントやいじめを繰り返す職場の方、相談や支援に携わる方、みなさんと共にその根絶を考え、行動したい。
さくらワーカーズオフィスは、傷ついた人の癒しや立ち上がりをお手伝いします。
傷つけることをやめられない人、ハラスメントを繰り返す職場を変えたいと考えている方の相談にも対応します。
「職場から暴力やハラスメントをなくす」活動に関心ある方や何かしたいと考えている方も歓迎します。

人の集団にはいじめや嫌がらせがある。「職場」という集団にも当然ハラスメントがある。
*Harassment(英語)は、いじめ、嫌がらせの意

セクシュアルハラスメント

職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件につき不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること

男女雇用機会均等法

パワーハラスメント

職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの

労働施策総合推進法
■ハラスメントを受けたか?
(過去3年)
セクハラパワハラ
ハラスメントを受けた(全体)10.2%31.4%
ハラスメントを受けた(男性)7.9%33.3%
ハラスメントを受けた(女性)12.8%29.1%
■心身にどんな影響があったか?セクハラパワハラ
怒りや不満、不安を感じた54.1%70.6%
仕事(就活)への意欲が減退した35.4%62.0%
職場でのコミュニケーションが減った27.1%36.8%
眠れなくなった13.6%23.1%
■その後どうしたか?セクハラパワハラ
上司に相談した13.8%18.1%
同僚に相談した18.3%22.0%
社内相談窓口に相談した5.8%5.4%
家族や友人に相談した13.4%17.9%
会社を退職した6.9%13.4%
(本人が)何もしなかった39.8%35.9%
何もしなかった理由セクハラパワハラ
何をしても解決にならないと思った58.6%66.7%
■勤務先の対応は?セクハラパワハラ
相談にのってくれた34.6%28.0%
行為者に事実確認を行った11.0%9.7%
不利益な取扱いを受けた15.4%8.1%
(勤務先は)何もしなかった33.7%47.1%
■ハラスメントの認定は?セクハラパワハラ
ハラスメントと認めた30.1%22.3%
ハラスメントと認めなかった26.4%16.3%
あったともなかったとも判断しなかった40.2%59.3%
職場のハラスメントに関する実態調査・令和2年度厚生労働省委託事業

これらの調査から、次のような実態が見えてくる。
●職場で10人に1人がセクハラを受け、10人に3人がパワハラを受けている。
●ハラスメントを受けた労働者の3分の1以上は相談も通報もしなかった1割が退職した。
相談も通報もしなかった理由の大半は「何をしても解決にならない」と思ったから。
●相談や通報を受けても3分の1以上が「会社は何もしなかった」
●セクハラ相談の40%以上、パワハラ相談の60%近くが「ハラスメントかどうか判断されず、曖昧にされた」
相談しても放置され、曖昧にされ、会社が信用できないと感じる。職場でのハラスメントの取り組みの多くは機能していない。

ハラスメントを受けるとからだやこころが傷みます。仕事や同僚のことより、自分と家族のことが何より一番です。悩みやつらさをひとりで抱えないで話にいらしてください。からだやこころが軽くなることがあります。行動する力が少し回復することもあります。

就活セクハラ

就活セクハラは、採用担当者やOB・OGなどから就職活動中の学生や求職者に対して行われる性的な言動のことで法律上の定義はない。男女雇用機会均等法にもとづく指針で労働者と同様にセクハラ防止や対策の取り組みが望ましいとされている。

セクシュアルハラスメント防止措置に関する指針
■就活セクハラを受けたか?
セクハラを受けた(全体)25.5%
セクハラを受けた(男性)26.0%
セクハラを受けた(女性)25.1%
■その後どうしたか?
大学等のキャリアセンターに相談した19.2%
大学等の他の部署に相談した18.0%
家族、親戚、友人に相談した17.6%
何もしなかった24.7%
何もしなかった理由
何をしても解決にならないと思った47.6%
■どのようなときにセクハラを受けたか?
インターンシップに参加したとき34.1%
説明会やセミナーに参加したとき27.8%
採用面接を受けたとき19.2%
■どんなセクハラを受けたか?
性的な冗談やからかい40.4%
食事やデートへの執拗な誘い27.5%
性的な事実関係に関する質問26.3%
■心身にどんな影響があったか?
怒りや不満、不安を感じた43.4%
仕事(就活)への意欲が減退した39.0%
眠れなくなった16.4%
職場のハラスメントに関する実態調査・令和2年度厚生労働省委託事業

この調査から、次の実態が見える。
4分の1の就活生がインターンシップや説明会、面接の場面就活セクハラを受けた
性的な冗談や食事の誘い、性的な質問があった。
●4分の3が誰かに相談したが、4分の1は誰にも相談しなかった
●相談も通報もしなかった理由の大半は「何をしても解決にならない」と思ったから。
就活中にセクハラがあることは以前から知られていた。今のところ就活セクハラは法律の外のこと。それでもようやく指針が示された。きまりがないと変わらない社会はむなしいが、とにかく早期の法制化を望む。

就活生に対するオワハラも受けることもあります。オワハラとは「採用内定や内々定と引替えに、就職活動をやめるよう強要すること」(若者雇用促進法にもとづく指針)とされている。
オワハラは、若者にとって大切な職業選択の自由を奪ってしまう。

ハラスメントを受けるとからだやこころが傷みます。仕事や同僚のことより、自分と家族のことが何より一番です。悩みやつらさをひとりで抱えないで話にいらしてください。からだやこころが軽くなることがあります。行動する力が少し回復することもあります。

マタニティハラスメント・パタニティハラスメント
*paternity(英語)は、父性の意

職場において行なわれる女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、休業を請求したこと、休業をしたことその他の妊娠又は出産に関して業務上支障をきたす等の事由で行われる言動により当該女性労働者の就業環境が害されること

男女雇用機会均等法

ケアハラスメント
*care(英語)は介護の意

職場において行なわれる労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関して業務上支障をきたす等の事由で行われる言動により当該労働者の就業環境が害されること
*育児をしている男性労働者、介護をしている労働者が対象となります

育児・介護休業法

カスタマーハラスメント

顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為により、その雇用する労働者が就業環境を害されること

パワーハラスメント防止措置に関する指針
■顧客から著しい迷惑行為を受けたか?
(過去3年間)
カスハラを受けた(全体)15.0%
カスハラを受けた(男性)14.9%
カスハラを受けた(女性)15.0%
■業種別(上位4業種)
生活関連サービス業・娯楽業25.1%
電気・ガス・熱供給・水道業23.3%
不動産業・物品賃貸業22.6%
卸売業・小売業21.9%
職場のハラスメントに関する実態調査・令和2年度厚生労働省委託事業

この調査から、顧客などからの暴力や嫌がらせに企業と労働者が悩んでいる実態が見える。コロナ禍で迷惑行為が増えたと答えた企業は約15%だった。
2022年4月からのパワハラ対策義務化と同時に、カスハラ対策が指針に盛り込まれた。労働者の人権が損なわれたり、人格が侵害されたり、心身が傷ついたりすることがないように企業の取り組みが求められている。

ハラスメントを受けるとからだやこころが傷みます。仕事や同僚のことより、自分と家族のことが何より一番です。悩みやつらさをひとりで抱えないで話にいらしてください。からだやこころが軽くなることがあります。行動する力が少し回復することもあります。

ハラスメント対策としての法整備や施策が進む一方で、パワハラは減ることはない。人が集団の中で生きていく限りなくなることはない。臨床心理学者ジョージ・サイモンは著書のエピローグにこう書いている。

『人類の長い戦火の歴史をたどれば、人間の根源に横たわるこの本能はいまも脈々と息づき、機会をとらえてはその頭をもたげようとしている』

『人格形成とは人の一生におよぶ試みで、その過程を通して人はみずから律することを学び、他人に交じって責任ある態度で生きる能力、生産的に働く能力、とりわけ重要な人を愛する能力をはぐくんでいく』

他人を支配したがる人たち(George K.Simon,Jr.,Ph.D 草思社文庫)

私たちが長い時間を費やしている職場の多くは安全ではない。ハラスメントがあっても「相談できない」「わかってくれない」「何もしてくれない」「あいまいにされる」・・・当事者はひとり悩み、苦しみ、そして・・・ときに黙って職場を去っていく。 ハラスメントで心や体が痛めつけられ、生活やキャリアや人間関係がボロボロになっていく。職場は変わらず、同じことを繰り返し、傷つく人が増えていく。

【第3回】に続く

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