「かか」(宇佐見りん 河出書房新社)

宇佐見りんさんが繊細な感性で大学在学中に書いた作品。
最年少で三島由紀夫賞を受賞し、文藝賞も受賞、野間文芸新人賞候補にもなった。

母親を「かか」と呼び、19歳の娘である主人公は自分を「うーちゃん」と呼ぶ。
弟のみっくんを「おまい」と呼んで語りかけながら展開する独特なストーリーを宇佐見さんの思いを辿りながら読み進んでいく。
一気読みのあと、もう一度ゆっくり読んでみる。

「とと」(父)と離婚したかかは、壊れてしまって、お酒に溺れ、酔うと暴れて自傷する。
かかは「ババ」(祖母・かかの実母)から「長女がひとりだとかわいそうだからおまけに生んだ」と言われて育つ。
誰からも認められなかったかかが、愛してくれると思って結婚したととはDV夫だった。
うーちゃんは、そんなかかを憎みながらも、愛している自分に苦しむ。

…うーちゃんはにくいのです。ととみたいな男も、そいを受け入れてしまう女も、あかぼうもにくいんです。そいして自分がにくいんでした。…男のことで一喜一憂したり泣き叫んだりするような女にはなりたくない。誰かのお嫁にも、かかにもなりたくない。女に生まれたこのくやしさ、かなしみが、おまいにはわからんのよ

NHKのインタビューに宇佐見さんこう答える。
『うーちゃんは「とと」という存在に傷つけられる「かか」を見て、自分も女性としての役割が嫌だなって思うんですけど、よくよくそれをたどっていくと、「自分が生まれたせいなのではないか」とか「自分が生まれなければお母さんはもっと幸せだったんじゃないか」、「ととと結ばれなければかかは壊れずにいられたんじゃないか」というような考えが彼女の中に渦巻いていて。
女性がいて男性がいて、性交渉して子どもが生まれてくるというシステムそのものに対する、どうしようもないことではあるんですけど、それがなぜなんだろうと思うという。難しいですけど・・・。』

かかととととの行為の結果で生まれた自分を恨み、女として生まれた自分をも憎む。
うーちゃんは、かかのえんじょおさん(エンジェルさん)。
壊れてしまっているかかを何とかしてあげたい・・・。
そして、うーちゃんは、かかを妊娠して産みたい気持ちを抱いて熊野に旅立つ。

みっくん、うーちゃんはね、かかを産みたかった。かかをにんしんしたかったんよ

体や心に傷をつくりながらリアルな世界で生きながら、うーちゃんにはSNSの世界にも生きる。
そこには、リアルでない自分がある。
そこでは、うーちゃんはかかを死なせてしまうこともできる。

ばちがあたったんだ、と思いました。人の命をもてあそび不幸に嫉妬し踏みにじったばちがあたった。そいはうーちゃんをぎらぎら興奮させました

そいしてばちがあたったとき、その存在にふるえながらようやく人間たちは安心することができるんです。自分のことを本当に理解する誰かと繋がっている安心感に、身をまかしることができるんのよ

「うーちゃん」と「かか」と「ババ」と母と娘のつながりの中に人の生きる姿を凝縮して描いている。
第一人称の「わたし」でない「うーちゃん」の語りにリアルさを感じる。
家族だけの合言葉「かか弁」にさらに味わいが増す。
男性目線の書き手が多い中で、女性として生きることを感じるままに語るそのまっすぐさがとても心地いい。
男性の存在をクールに描く感じからも、女性が生きる様を強く感じさせる。

現実は変わらず、うーちゃんもかかもババもおまいも、そして読者のわたしたちも、今日の日常が続くということか。

「ありがとさんすん」 そして 「さよならまんもす」

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